30年を超える研修「野球指導者講習会」が今年度も開催 2025年度のメインテーマは「指導者のマインドセット」

2026年1月24日〜25日の2日間、都内で「2025年度 野球指導者講習会」が開催される。

1月14日(水)まで募集が行われているこの「Baseball Coaching Clinic(以降、BCC)」は、毎年トレンドを押さえた座学やパネルディスカッション、そしてプロ野球OBによる実技指導といったカリキュラムが用意されている。

開催に先立ち、BFJ(全日本野球協会)事務局の石井新氏に今年度のポイントを伺いつつ、開講予定のものを紹介していく。

(文:白石怜平)

30年以上続く伝統ある研修が今年も開催

BCCは野球の指導者における資質向上を目的に約30年前から続いている伝統ある研修。

長い年月を経る中でアップデートしながら展開しており、現在は公認野球指導者基礎や全日本軟式野球連盟公認学童コーチ、日本スポーツ協会(JSPO)の軟式野球コーチの資格更新研修としても認可されている。

主に受講者層は小学生・中学生の指導者が中心で、高校生の指導者も一部参加している。

資格更新研修ではあるが、一指導者として学びを深めたい人も全国から集まるのも特徴。受講者数も毎年数百名〜1000人を超えるなど、年々規模も大きくなっている。

昨年は5年ぶりにオンラインとともに集合研修が復活し、今年もハイブリッド型での展開が予定されている。集合研修での定員は160名であるが、オンラインは定員なしで、申し込めば何名でも受講が可能となっている。

昨年は集合研修とオンラインのハイブリッドで開催された

通年で定期的に行われる本研修の意義について石井氏はこのように述べた。

「BFJ会長の山中(正竹)が至る所でお話をしていますが、我々としては指導者の皆さんに学び続けていただきたい想いがあります。特に昨今はさまざまな形で知識を得られる時代になってます。

ですので、指導者が選手から相談を受けた時にアプローチができるよう、指導者も先行して引き出しを持っておく必要があります。自分の経験をアウトプットするだけでは通用しない時代になりました。選手も、指導者が勉強しているかしていないかを見抜けるようになってきているという事実は、指導者自身からお聞きする話です。

教師と生徒、指導者と選手という関係は、どうしても教えてあげている、という『感謝』を求めがちですが、前出の山中の言葉を借りれば、『指導者は、感謝される存在ではなく、”感化”される存在であることを意識すれば、常に学ぶべきと考え、おのずと行動も変わってくる』ものなのかもしれません。

BCCは年に一度定期的に実施していますので、ご自身の知識をもう一度ブラッシュアップするタイミングとして活用してもらえたらと考えています」

座学やパネルディスカッションはトレンドを押さえたテーマに

今年度も例年通り、初日は座学とパネルディスカッション・2日目は実技講習が行われる。

座学は昨年度から種目も増えリニューアル。「コーチング」「フィジカル」「ハラスメント」「データ活用」というラインナップになった。

カリキュラムの意図について、石井氏はデータ活用について説明した。

「着目したいのは今回、指導者のマインドセットに比率を多く置いていることです。例えば『データ活用』では林卓史先生に登壇いただくのですが、ラプソードを日本で初めて導入するなど、その分野の先駆者とも言える方です。

その一方で現役時代は周りの誰もが認める「努力家」、そして気迫を前面に出す投球スタイルであったということで、データの活用と感性との融合に関して幅広いお話をしていただけるのではないかと考え、オファーをさせていただきました。

大学の監督・コーチ経験もさることながら、巨人のU-15さらには侍ジャパンのU-12でも指導をされているので、さまざまな悩みを抱えている指導者に向けての説得力はとても強いのではないかと想像しています」

続いてはコーチング。こちらについても明確な想いを持ったテーマ設定とした。

「また、『コーチング』においては、ソフトボール日本代表のコーチを務められた柳田先生にご登壇いただきます。柳田先生は、行動生理学という、人間や動物の行動がどのような脳の働きに基づいて生じるのかを解明する学問がご専門です。

例えば、指導者が良かれと思って自分の技術や理論を選手に伝えた際に、選手から『なぜそれが正しいのか』と質問されたときに、理屈を説明し納得させられるかどうかが重要です。

ただ、なんとなく感覚で自分に合ったものに、他人が合わせられるとは限りません。また、現場でのご経験から、スポーツインテグリティの観点からもお話しいただく予定です。指導者の皆さんにとって有意義な時間になることを期待しています」

毎年アップデートしている集合研修 ©BFJ

パネルディスカッションでは例年専門家などを招き、野球界・スポーツ界でトレンドになっているトピックについて議論し合う場となっている。

昨年度は「中学生年代の野球環境整備について」と題し、部活動の地域展開における野球界での現状や考え方、取り組みなどについて話し合われた。

今年度のテーマは暑熱対策。進行を可知芳則氏(全日本野球協会・選手強化委員会医科学部会長)、パネリストに笠原政志氏(国際武道大学教授)・青野博氏(JSPOJスポーツ科学研究室室長)・岩井隆氏(花咲徳栄高校硬式野球部監督)を招いて行われる。

例年注目を集めるパネルディスカッション ©BFJ


「例年夏の大会やイベントの実施可否について議論がされていますよね。

甲子園から少年野球といった各カテゴリーで、今日本が直面している猛暑というものに対し、野球をどう行っていくかは今後も大きな課題になっていくと思います。

高校野球の現場で指導されている岩井先生だけではなく、可知先生も交え、医科学的な見地で意見交換をしていただきますので、今後の対策という観点でもぜひ聴いていただきたいテーマです」

続けて、このテーマに決めた背景についても述べた。

「真夏に限らず、6月から9月・10月まで暑さが続いていて、8月はもはやプレーすることが危険な状況に陥っていますよね。

ではそのような状況下において、実際の現場ではどのように対応すべきかを一刻も早く皆さんとともに考えることが重要ではないかという議論になりました。時間帯などを考慮して耐え得る暑さで競技を続けることや、身体のケアやトレーニングの観点から対策を講じることも工夫の一つです。

野球が今後も春から秋にかけて行われるスポーツとして続けていけるのか、または、根本的に発想を転換する必要があるのか。指導者がどのように考えていくべきかという観点でお話いただきますので、皆さんも一緒に考えるきっかけにしていただきたいと思います」

今年もプロ野球OBが担当する人気の実技講習

翌日の実技講習では、今年度もプロ野球OBが講師を務める。

今年度は、投手が松沼博久氏(元西武)と成瀬善久(元ロッテ・ヤクルト)、捕手が黒羽根利規氏(元DeNA・日本ハム)、打撃が鉄平氏(元楽天他)と飯田哲也氏(元ヤクルト・楽天)、守備が英智氏(元中日)の6名の予定だ。

メディアで目にしてきた選手たちから直接教えを受けられる機会ということもあり、受講者からの人気が高いカリキュラムである。

毎年人気を集めているプロ野球OBによる実技講習(画像は前回時)

プロでの選手そしてコーチの経験もある面々からの指導を通じて、参考ポイントを挙げた。

「特に打撃ではネット上に理論が多く紹介されていて、選手たちがそれを実践していることから耳を傾けてもらえないケースもあるかと思います。

指導者側としてはそれを頭ごなしに否定するのではなく、自分の持っている知識をアップデートしていく中で、理論の本質と選手の解釈・自身の伝え方を整理することで、導き方や方向も違ってきます。

ですので指導者の皆さんには、ここでの伝え方も参考にしていただけたら嬉しいです」

BCCに参加する層として、上述の通り中学生を指導する人も多く参加が見込まれる。

現在進んでいる部活動の地域展開に伴って、野球経験のない人が指導を担当する可能性があることから、石井氏はそんな方にもメッセージを送る。

「野球に携わったことのない方が今後指導を担当することも十分に考えられます。そうなった時に知識をつけるためにも、『この動きができるにはどうしたらいいですか』といった答えを探している方たちもいるかと思います。

質問コーナーも設けていて、アドバイスを求められる時間にもなりますので、ぜひこの機会を活用してほしいです」

BCCは申し込み期間中で、冒頭の通り1月14日まで募集している。石井氏には最後、受講後の期待することについて語ってもらった。

「講習を通じて『これ取り入れてみよう』『こういう考え方もあるんだ』と感じてもらい、それを実践に移してみていただきたいです。

今まで学んできたことがなかったような内容を、ぜひ一つでも持ち帰っていただいて、『もっと勉強しなければいけない』と思っていただくだけでも参加した意味があると思いますので、行動のきっかけになってもらえたら嬉しいです」

30年を超える伝統研修は今も時代に合わせてアップデートを重ねている。来年1月下旬、受講者はまた新たな発見ときっかけを得られる2日間となる。

詳細・お申し込みはこちらから! (※2026年1月14日まで)

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