11月15日、都内で「全日本野球サミット」が開催された。中学野球の未来を切り拓くべく、野球界が手を組んだ動きが本格的にスタートした。
(写真 / 文:白石怜平)
中学部活動の地域移行に向けた野球界における協議の場
本サミットは「中学球児応援プロジェクト」の一環で行われた初めての取り組み。中学球児を野球界が一体となって支援するべく、6月に日本野球評議会にて発足したプロジェクトである。
教員の働き方改革や少子化を背景に、国が推進している中学部活動の地域移行。来年度からの6年間を改革実行期間と設定され、完全移行へのフェーズへと入る。
野球界として中学球児が野球を継続できるよう、今後の対応を協議するため47都道府県から135名が参加した。
冒頭では日本野球評議会の山中正竹会長(全日本野球協会会長)と榊原定征副会長(NPBコミッショナー)が挨拶。
山中会長は「部活動改革においては、野球界が一つになって協議する必要があります。今回のサミットでは横の連携を醸成する場として活用いただきたい。
皆様にはここで得た情報を待ち帰っていただき、地域に合った環境づくりに向けてリーダーシップを発揮してほしい」と述べた。

榊原副代表は「中学部活動の地域展開は、より魅力的・活力の場となるチャンスだと捉えています。野球をやりたい・続けたいと考える中学生たちのバックアップをしていきたい」と宣言し、サミットはスタートした。

サミットは2部制で行われ、第1部では26都道府県に展開されつつある野球協議会創設の事例や、部活動改革から見る野球を取り巻く現状・課題が共有された。
協議会創設においては北海道野球協議会と長野県野球協会が代表して事例を共有。地域で取り組んでいる野球の普及活動や実績、部活動の地域移行において現在行っていることなどを紹介した。
「部活動改革から見る野球を取り巻く現状と課題」では、全日本軟式野球連盟理事でスポーツ庁 地域スポーツクラブ活動アドバイザーも務める石川智雄 氏が登壇した。
国の方針や背景などを説明し、ここでは中学野球の地域移行に伴う主な課題や野球界として取り組むべきことなどが示された。
5年前から地域クラブ化を実現している「川口クラブ」
2部で最も時間を使ったのが、現時点で地域移行を実践しているクラブなどの事例共有。まずは「川口クラブ」がその先陣を切った。
かねてより中学校の部活動の地域移行におけるモデルケースとして県内外から注目を集めており、昨年3月にも本メディアに登場した。
20年に地域クラブ型へと転換後は、23年には運営母体として「一般社団法人STAND FOR BASEBALL川口」を設立。同年から県による「新たな地域クラブ活動実証事業」にも採択された。
会員数は中学生256名、スタッフは41名でうち39名が教員との兼業で携わる。市内の中体連野球部所属選手の約60%が川口クラブに在籍し、主に毎週日曜日を活動日としている。
財源は会費に加えて企業や地域の方々からの寄付で構成されており、大会出場においては、埼玉県中学生野球連盟が主催する大会に参加している。

登壇した武田尚大氏は運営組織を解説した。
「現在は4支部で展開を行っています。 その中で各支部でトップ・ミドル・育成の3カテゴリに分かれ、選手がどのレベルでやりたいかを自分で選べるシステムです。
もともと選抜チームとして活動していた歴史もありますので、U14・U15の選抜チームもあります。現在は野球だけではなくソフトテニスとハンドボールでも同じ取り組みを展開し、最近ではBaseball5のチームを立ち上げています」
続いて同クラブの村上淳哉氏から地域クラブを運営する中での課題と、それぞれ行っているアプローチが紹介された。

ここで挙げられた部活動地域移行の課題は「指導者の確保」「ニーズへの対応」「運営者の負担」の3点。
指導者の確保については「有償ボランティア」制度を確立し、市や教育委員会と連携することで兼業での指導を実現した。
ニーズ対応としては、「まだ練習したい」と思う選手への機会提供を例に挙げる。ネクストベース社など外部機関と連携し環境整備を行うと共に、就学援助家庭には月会費の減額や用具提供など経済的な支援を実施している。
また、運営負担軽減ではパートナー企業のシステムを活用し、運営効率化を実現したことを挙げた村上氏。現在も「教育×地域×企業」の連携による地域スポーツモデルの構築を目指しているとして、プレゼンを締めた。
“持続可能な運営”を続ける「福知山ユナイテッド」
2例目は京都に拠点を置く「福知山ユナイテッド」。代表の片野翔大氏がプレゼンを行った。
22年に発足した福知山ユナイテッドはサッカーやバスケットボールを中心に15クラブを運営。会員数は300名・スポンサーは100社を超え、体制は理事6人のうち半数の3人が教員と兼業、3人がビジネスマンという構成となっている。
収入源は月謝・スポンサー・行政からの委託事業であるとし、片野氏は上記体制の意義を語った。
「我々は地域展開を切り口とした時、学校だけ・地域だけのものではなく『共存させていくんだ』というのを体制からメッセージを発信しています。
教える人だけの組織ではなく、持続可能つまり稼ぐことから逃げてはいけないと考えていて、マーケティングやブランディングなどができる人材を配置することで、会社として成り立つモデルを作っていく。そのための体制づくりをしています。
補助金・助成金にも頼らないと決めていて、実際使わずにこの3年間やってまいりました」

クラブ・スクール運営のみならず、トップアスリートを招待した体験会開催なども行っている福知山ユナイテッド。
これらの実績が評価され、教育委員会より「市立中学校に向けての部活動地域展開運営に係る事業」を受託したことを7月に発表した。
ここでは各種目の指導者の確保や勤怠管理、参加する生徒や保護者への対応など幅広い役目を担っている。地域の先頭に立ちクラブ運営を推進する先のステップとして、今後の展望を述べた。
「ハードが必要な時期に来ていると感じています。一つの場所にさまざま競技が集まりコミュニティとなって、応援し合える仕組みをつくりたい。
今後まちづくりの中でとても大事な機能をスポーツが持つと考えているので、我々は施設の指定管理を担うという提案活動を行っています。
地域展開では部活動をするのみならず、これを機に地域のスポーツ環境を整理し直すという機会として捉えています」
NPB2球団が推進している中学部活動への支援
中学部活動の地域移行の支援は、プロ野球界もさまざまな取り組みを行っている。本サミットでは、NPB2球団で行っている事例が共有された。
1球団目はこちらも本メディアにて特集したこともある読売巨人軍での事例。野球振興部の倉俣徹部長が登壇した。
巨人では部活動の地域移行における取り組みとして、22年に東京都中体連の一部地区でジャイアンツアカデミー指導者の派遣を開始。
翌年から都内全域に拡大し、23年度は51回・24年度は90回そして今年度も約90回と年々回数を増やし、さらに地方からの依頼にも応えるなど展開を進めてきた。

形式は派遣型と拠点型の2種類があり、派遣型は各中学校からの直接申込によって指導者が学校へ行き指導を行う形式で、拠点型は東京ドームのある文京区や「GIANTS TOWN STADIUM」のある稲城市などの行政が管理し開催する形式である。
これらの訪問指導により明確な効果が生まれている。倉俣氏は、以下のデータを発表した。
「2014年から2025年までの東京都中体連の部員数を見ると、14年は14,000人・631チームあったところから、ちょうど我々が支援を始める2021年から 2022年頃には10,000人を割っていました。
ですが、今年10,000人台に上昇していきました。その要因としては、受講した方たちがプロを身近に感してモチベーションが高まること、また指導経験の少ない先生の指導力がアップしているのだと感じています」

そして、事例共有の最後を飾るのは広島東洋カープ。社長室野球振興グループ次長の三雲曉(ひかる)氏が登壇し、球団が取り組んでいる学生審判員の養成・派遣についてプレゼンした。
野球人口の拡大・顧問教員の負担軽減を両立するため、広島市の行政や県の軟式野球連盟と連携。
野球振興において「選手としてプレーする以外でも、野球に携わり続けてくれる野球人口の増加」を一つのテーマとして掲げていることから、大学生審判の育成に着手した。三雲氏はその背景などを語った。
「野球界全体で審判員も不足している現状があります。さまざまな危機感がある中で何ができるかを考えたところ、大会運営と審判員の2つを育成することだと。
協議の過程で『部活動というのは、教育の場である』という意見があったことから大学の野球部員を対象にしようと決めまして、大学野球部へ実際に足を運びご理解・ご協力をいただきました」
学生審判員の派遣に向けては、まず募集をかけて県内の約30名の大学生が集まった。その学生たちに向けて県軟式野球連盟が講習を行い、今年の春に初めて市の中学野球選手権への派遣が実現した。

そして大会育成においては、11月22日に新たな大会が新設された。市と中国新聞社は球団や市の教育委員会とも協力し、軟式野球大会「中国新聞杯」を開催。
11月22・23日と12月6・7日の4日間、市内の46チーム約900人が予選リーグと決勝トーナメントを戦っている。
「教員からは、『私たちの負担軽減よりも、子どもたちの練習の成果を発揮する場所がなくなるということがとても辛い』というお話がありました。
元々3つあった大会が今2つに減ったので、新たに大会をつくってほしいという声も挙がっていました」

この大会でも学生審判を派遣しており、審判と大会育成の2つを両立した例となった。
そして最後のコーナーであるパネルディスカッションでは、「中学球児応援プロジェクト」のアンバサダーを加えて、未来を創る熱い議論が繰り広げられた。
(つづく)

