【優勝/準優勝監督インタビュー】三菱自動車岡崎・梶山監督が振り返る都市対抗大会(前編)

指揮官が本当の理想とする野球ではなかった。

しかし、その気持ちは封印としたとはいえ、準優勝という勲章は三菱自動車岡崎にとっては大きなものになった。

「うちの今までの成績を見てもらったらわかるんですけど、あまり都市対抗で上位に進出することもできなかったですし、今回の準優勝は24年ぶり。歴史の中で言うと、ベスト4が2003年です。一昨年のベスト8が2003年以来ですから、今回の結果としては上出来というか、よくそこまで勝てたなとは思っています」

ガンガン長打が出る野球→粘り強い野球 への転換

三菱ふそう川崎時代に選手として3度の優勝を経験。三菱自動車岡崎の指揮官、梶山義彦監督はそう語る。自身は現役時代に決勝で負けたことがなかったから、また違う感情もあったが、準優勝まで昇り詰めたことに一つの手応えがあると話す。

もともと外野手だった梶山監督が目指していたのは長打がたくさん出る攻撃的な野球だった。しかし、チームに携わるうち、それは簡単ではないことを悟った。ガンガン打つ野球から粘り強い野球。そうシフトしていくうち、まずはディフェンスを固めてからという今のスタイルに落ち着いたと梶山監督はいう。

「ガンガン長打が出すというチームがやっぱり理想なんですけど、やっぱりなかなか、そこまでは至ってないというか。ちょっと表現を変えて、粘り強い打線っていうような形にちょっとシフトしたんですけれども、本当にバッテリーを中心にきちんと守る。そういうのがまず大前提ですね」

今年の都市対抗大会は石橋を叩いて渡るかのような接戦続きだった。1回戦・JR四国戦では3−1と接戦を制すると、2回戦のJR東日本東北戦ではエース・秋山翔の完投で再び3-1の勝利。準々決勝も投手陣の奮闘で3−0と完封ゲーム。二人の先発投手、秋山翔、秋山凌祐を軸にして徹底的に鍛え上げた守備がチームを大きく支えた。

「5試合やるうち1試合ぐらいはちょっと打線が爆発するようなことがあると波に乗っていける。大会を勝ち上がるチームはそういう試合があるんですけど、本当に全てが接戦でした。こういう展開の中でずっと投げていくというのは相当に大変ですので、本当にピッチャーはよくやったなと思います」

左腕の秋山、右腕の秋山に加えて救援陣も盤石だった。防御率は0点台をマークして圧巻という他なかった。エース・秋山翔の円熟した投球はアマチュアレベルでは参考にしたい投球だった。

準々決勝では昨年の都市対抗初戦で1−14の大敗を喫したNTT西日本だった。しかし、今大会の組み合わせが決まった時のリベンジできるという声が上がったとはいえ、実際に対戦するときにはそれほど意識にはなかったという。

「周りの方はそれを言いますし、選手も相手が決まった時は『リベンジだ』という声も上がってたりしていたんですけど、私自身はあんまりそんなところに意識する必要ないよと。どの試合でも同じだということで、自分らがやれることをきちんとやると。たまたま、相手がNTT西日本だということで、私の中ではそういう感覚でしたね。ミーティングでいつも私が言っていることは変わらないと思います。どの試合でも、自分たちがしっかり準備をして、きちんとやるべきことをやりましょうということしか言わないんですよ」

経験豊富なエースとして円熟した投球を見せた秋山翔 (提供:三菱自動車岡崎野球部)

ベテラン補強選手が生んだ化学反応

準決勝は一転して、補強選手の戸田公星が先発した。JR東海から3度目の補強になるが、勝手知ったる存在となった戸田には指揮官も大きな期待をかけていた。昨年も呼んだのだが、起用する間もなくチームは敗退。大会の序盤は先発投手が崩れたときに待機させ、それ以降はこの時まで温めていたのだ。

都市対抗に限らずアマチュアのトーナメントの戦いでは必ずエアーポケットのような瞬間がある。看板投手がいたとしても、どこかで休ませないと行けないタイミングがある。その試合だけでなく、その先も見据えないといけない。そうしたエアーポケットのような試合は極めて重要なのである。

梶山監督はそこで戸田に白羽の矢を立てたのだった。自身も補強選手として出場した経験者であり、30歳を超えるベテランの意義が特にわかっていた。

「これが都市対抗の醍醐味ですよね。戸田君は今年で3回目の補強になるんですけど、2017年に来てもらった時はリリーフでした。昨年は1回戦敗退だったので登板機会を与えられずに私の中でも心残りなところもあったんです。この試合はもう戸田君しかいないなということで先発してもらいました」

戸田の存在は大きかった。練習に合流した時からチームに簡単に溶け込んでいた。なおかつ。年齢が下になる選手などには積極的に声をかけてくれた。「チームの色はベテランが作る」とは組織論ではよくいったものだが、戸田の存在は今年の三菱自動車岡崎にとって大きな存在だった。

戸田は6回を3安打無失点とゲームメイク。勝利投手になった。両者にミスの出る苦しい戦いではあったものの、日本生命を振り切って決勝進出を果たしたのだった。

梶山監督(写真左) (提供:三菱自動車岡崎野球部)

「準優勝」の心境

決勝戦は先行しながらも試合終盤にミスが出て敗れた。もちろん、梶山監督は守備へのさらなる課題をもらったが、攻守両面での課題が浮き彫りに出たとして、この試合を振り返っている。守備力が届かなかったというだけではない要素がこれからの課題である。

チームとして24年ぶりの準優勝は大きなものをもたらしたことに間違いなかった。梶山監督も「これまでやってきたことが間違いではなかったという大会にはなった」と振り返る。そのやってきたことというのは、バッテリーを中心にディフェンスを固め、しっかり準備をしてやり切ることだ。全力疾走やカバーリング、日常生活での当たり前の積み重ねなど、大切にしてきた部分だ。

ただ、梶山監督は満足する部分もありつつも、やはり、準優勝という立場での閉会式には複雑な思いもあったという。これまで選手として3度の優勝を果たしてきただけに「長い」と感じた閉会式の時間は新たな気持ちを指揮官自身にもたらしたと話す。

「僕は決勝で1回も負けたことなかったので、閉会式がものすごく長く感じましたね。やっぱりそれが悔しさということになるんでしょうね。

決勝戦は終盤まで勝っていましたし、いろんな想いがありますね。うちがミスしていて、王子さんはきちんとやりきった。相手をたたえるという気持ちでいましたけど、やっぱり負けは負けですので全国で2番目になったということです。過去のうちの成績から考えれば大躍進で満足感もあるんですけど、やっぱり素直には喜べない。優勝チームしか喜べないんですよね」

準優勝チームの多くが持つ複雑な感情。現役時代からアマチュアのトップレベルでプレーしてきた梶山監督にとっては、やはり、勝負へのこだわりが最後まで消えたなかったということであろう。

後編では梶山監督が指揮官として目指す野球像に迫る。

(取材/文:氏原英明 写真提供:三菱自動車岡崎野球部)

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