オフの日は練習NG。16歳から「メジャーリーグボディ」をつくる、MLBドミニカ・アカデミーの3つのアプローチ

ドミニカ共和国でメジャーリーガーを養成するMLB球団のアカデミーには、主に16〜20代前半の選手が在籍している。彼らに対して真っ先に行われるのが、身体を大きくすることだ。

2025年からピッツバーグ・パイレーツのアカデミーで指導する松坂賢コーチが説明する。

「ここにいる選手たちがスカウトされたのは、“メジャーリーグボディ”になると考えられているからです。育成年代で体が一番成長しやすいときに育成できないと、『何のために獲ったの?』となってしまいます」

育成年代の選手たちに何を最も重視してプログラムを組むか。その内容は目的やゴールで大きく変わってくる。

日本の高校野球は目の前の試合で勝利しながら選手の成長を目指していく一方、ドミニカのアカデミーが見据えるのは5〜10年後にメジャーリーガーを輩出することだ。

どちらが優れているのかという話ではない。現地で取材して最も感じたのは、目的次第でここまでシステムとアプローチが変わるのかという点だった。

自主練は基本的に禁止

MLB球団のアカデミーに入団する選手には、痩身タイプが多い。その背景には、ドミニカでは国民の約3割が貧困層とされ、米やプラタノ(調理用バナナ)、ユカやキャッサバ(芋類)という炭水化物中心の食事をとっていることがある。

そうした少年たちをどう大きくしていくのか。松坂コーチが語る。

「体を大きくするには3つしかありません。筋力トレーニングをすること、栄養をとること、睡眠です」

実際、各球団のアカデミーではこの3つを重視して日々のプログラムが組まれている。

だから毎日の練習時間は短い。どの球団も朝8時に全体練習が始まり、午前11時には終了するようなイメージだ。

1月から11月まで稼働するパイレーツのアカデミーでは、3月末にスプリングトレーニングが終わるまではジムでのトレーニングが中心に行われる。「ハードウェアキャンプ」と言われ、トレーニングしか実施しない日もある。その日は強度を上げたメニューを1時間くらい取り組み、練習なしで終了。ランチを食べて、あとは「寝ろ」という徹底ぶりだ。

パイレーツのジム (©中島大輔)

「練習している場合ではないからです」と、松坂コーチは端的に言う。当然、自主練も基本的に禁止だ。それなら、全体練習をもっと充実させろという発想になる。

練習がある日も、まずはジムで30〜40分間トレーニングを行い、フィールドでキャッチボールと簡単な守備のメニューを15分取り組み、バッティングケージで30分打って終了。あくまで一例だが、実技はこれくらいしかない。

はたして、この程度の練習でうまくなるのだろうか。入団当初、松坂コーチ自身もそう感じたと明かす。

「量として少ないのかと言えば、たぶん少ないです。でも、これがたぶん一番うまくなって、かつ体が大きくなるためにカロリーをセーブできるのが、この練習量なのかなと思います」

最優先事項は、身体を大きくさせることなのだ。

パイレーツ・アカデミーの松坂賢コーチ (©龍フェルケル)

タンパク質を多く摂取

パイレーツには3人のS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチが常駐し、上司を含めた4人でウエイトトレーニングの重量やランニング、ジャンプなど各メニューの数値を測り、体重の変動を踏まえ、選手それぞれに「次はこれくらいのステップを目指そう」と提示していく。

同時に進められるのが栄養摂取だ。トレーニングの内容に沿い、炭水化物やタンパク質などの栄養素を毎日どれくらい摂ればいいかを専門家が指導する。

アカデミーの食事はバイキング形式で、鶏肉や豚肉、牛肉、魚介類などタンパク質をたくさん摂れるメニューが並ぶ。筆者はパイレーツとドジャースで昼食をご馳走になったが、どちらも非常に美味しかった。

どの球団もジムにはプロテインバーが設置され、各自がプロテインシェイクをつくって栄養補給する。こうした環境により、アカデミーの選手たちは大きくなっていくと松坂コーチは話す。

「一食で摂取するタンパク質の量は、日本より圧倒的にドミニカのほうが多いと思います。今日のランチには鶏肉とタコが出ましたが、いつもはビーフとチキン、チキンとポーク、ビーフとサーモンという感じです。みんな、40〜50グラムぐらいは平気でとるんですよね。それを三食でとり、かつプロテインを飲む。タンパク質の摂取量はかなり多いと思います」

パイレーツのランチ例 (©中島大輔)

休むことも練習の一つ

そして肝になるのが、十分な休養だ。松坂コーチが続ける。

「一番声を大にして言いたいのは、ドミニカでは練習時間が短いということです。練習しすぎると消耗してカロリーを消費するから、身体が大きくなりません」

ドミニカ式で成長を実感するのが、マイアミ・マーリンズのアカデミーに所属する右腕投手・中村来生だ。2023年限りで広島東洋カープの育成契約が満了となり、翌年からドミニカに渡っている。

広島時代は190cm、71kgだったが、自由契約となってからトレーニングを見直して83kgになり、マーリンズ入団後はさらに増えて91kgに(2025年7月の取材時)。広島時代はプロテインを自分で購入していたが、マーリンズでは支給され、「日本にいたときとタンパク質を摂取する量が全然違う」と語る。

自由に利用できるプロテインバー (©中島大輔)

さらに、大きく変わったのが練習量だ。毎日の練習時間が減ったことに加え、オフのすごし方を見直した。

「広島時代は休みの日もトレーニングをしたり、ボールを投げたりしていました。周りにそうしている人もいっぱいいたので。流されていたわけではないですけど、一番下の育成選手という立場で『何、休んでんだ?』みたいな目で見られるのも嫌だったので……」

だが、ドミニカに来て価値観が180度変わった。休みの日に行うのはストレッチくらいだ。

「ドミニカでは『休め』と言われるので、誰も体を動かしていません。逆に動いていたら、『何してんだ?』という目で見られます。しっかり1日休むだけで、次の日の体の状態が全然違いますね。休むことも練習の一つだと思うようになりました」

ここまで説明したようなアプローチをしていけば、身体を大きくさせることはできるだろう。

では、MLB球団のアカデミーはどのように野球の技術を向上させていくのか。その舞台となるのが、6〜8月に開催されるドミニカンサマーリーグだ。

※次回に続く

(文:中島大輔、サムネイル写真:龍フェルケル)

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