野球を含め、さまざまなスポーツの試合を行う上で欠かせない「審判員」。試合を陰ながらまとめ、進行し、数々のドラマを見届けている審判員には、プレイヤーとはまた違った魅力とやりがいがたくさんある。
審判員として20年のキャリアを持つ、山口智久氏が語る審判員の“リアル”。最終回となる今回は審判を目指したい方へのメッセージや今後の展望をお聞きした。
-動画配信サービスが進み、気軽に試合映像を見られる環境が広がりました。
いつでもどこでも試合が見られるようになったということは非常に良いことだと思います。また、過去の試合をネットで検索することができるようになり、審判員としてはより一層ジャッジに対する正確さが求められていくようになりました。
視聴者の方の中には、審判員の動きに注視してくださる方もいます。試合映像は選手中心でカメラが動いていますが、試合中のすべてを審判員の動きを映すという配信があっても面白いかもしれませんね。
それぞれの審判員の動きにも特徴がありますし、普段の映像配信では気が付かなかったようなことも沢山あると思います。先ほどのクロックワイズメカニクスの動きも、プレイ中心のテレビ中継では、ほとんど分からない部分です。
映像では見られないようなカバーリングの動きも大切にしていますので、ぜひ球場に足を運んだいただいた際には、そういった審判員の動きの部分にも注目していただければと思います。
-これからは審判員の動きにも着目してみようと思います。
審判員の動きにある程度の基本はありますが、目の前で動くプレイに応じて、立ち位置も目まぐるしく変わります。もっと良い立ち位置であれば、しっかりとジャッジできたのではないかという反省を常々しています。
審判講習会で講師を務めるときは、ある程度の動き方をヒントとして教えるようにしています。
かつては、このプレイでは必ずこの位置でジャッジするようにという指導もありましたが、現在はプレイによってアジャストする動きを大事にし、正確なジャッジをできるようにしようという伝え方をするようにしています。
-審判界の高齢化が進んでいるように思われます。
審判員をする方のほとんどが、競技経験者です。その中でも高校野球までやっていた方が多く、選手の頃、叶わなかった甲子園でのプレイを審判員として叶えたいという夢を持ってこの道に進んでくる方もたくさんいます。
全日本野球協会では、審判員のライセンス制度を中心に、構造的改革を進める中で、自分の目標を叶えるための仕組みの構築を目指しています。若い世代の方が「審判員をやりたい。」
と言ってくれた時に受け入れられる。そんな野球界でありたいと思っています。
-若い世代の審判を増やしていくために行っていることはありますか。
審判員という存在をより身近に感じていただけるように、選手との交流を増やしています。審判員自体は決して遠い存在ではありません。
もちろん試合の時は、審判員と選手という立場はありますが、試合を一緒に作りあげていくという気持ちは両者共通です。実際にオフシーズンには、地元の高校を訪問して実戦練習などに参加することで、より有意義な練習ができるような取り組みもしています。
また審判講習会を実施する際には、地元の高校生に協力を仰ぐことがあります。その際には審判員の魅力をお伝えし、一緒にジャッジの練習をすることもあります。
-2021年の夏に甲子園で行われた女子高校野球の全国大会決勝では女性審判員2名がグラウンドに立ってジャッジをしました。
女子野球が現在拡大している中で、女性審判員を増やしていくことも必要不可欠になっていくと感じています。
今後のスポーツ界では、女性スポーツの現場では、女性審判員がジャッジをするというような景色を作ることができることが理想ですが、まだまだ女性審判員の数は多くありません。
現状では女性審判員数や試合数を考えると男性審判員が試合を担当することの方が多いですが、今後の女性審判員普及のためにも、男性の試合に女性審判員が参加していくことも考えられます。
審判員として体感するプレーのスピードや球速の違いもありますが、練習をして慣れることで必ず対応できるようになると感じます。
-最後に審判員を目指している方へのメッセージをお願いします。
審判員は選手と一緒に試合を作り上げることができる唯一無二の存在です。今まで私がお話ししたような事例や考え方は一つの考え方であり、皆さんのスタイルを作り上げることができるのが審判員の魅力でもあります。
これは持論になりますが、審判員の技術が高いリーグや国は、それに伴って野球の技術や強さも比例していると感じています。
アマチュア野球の審判界全体のレベルアップにより、審判員の魅力が広く伝わることはもちろん、日本の野球界全体がより一層盛り上がるようになればと思います。

