”選手・後輩のために” 愚直に取り組む女性審判員の本音(神奈川県野球連盟・岩男香澄)

(岩男香澄さん(左)と父・昇治さん 写真:本人提供)

前編の記事では、岩男さんが女子野球の道に進んだ理由や、審判の世界に飛び込んだ理由をお聞きした。後編の記事では、仕事との両立を図る中で、普段から岩男さんが心掛けていること、発展が進んでいく女子野球への思いや今後の目標をお聞きした。

試験に合格しても日々勉強。野球規則書を読み込むのはもちろん、審判仲間とSNSやYouTubeを駆使してスキルアップを図っているという。「今までの動画を見てジャッジに迷うようなプレーは、『この適用であっているかな?』とか、(仲間が)問題を出してくれてこの場合だったらどの規則を適用するのかを話し合ったりしています」。知識だけではない。時には鏡の前に立ってジャッジの形が崩れていないか確認したり、夏の酷暑の中でもグラウンドに立ち続けるための体力づくりをしたりしている。

「人工芝か土のグラウンドかでも感じる温度も違うし、風がない球場はサウナ状態になる。夏でも冬のような恰好をしてなるべく汗をかいたり(コロナ禍前は)サウナに行ったり。ジャージーを2枚履きして、トレーナーの上にVジャンを着て走りに行くこともあります」

 ボールのスピードについて行くために目のトレーニングも欠かさない。「電車に乗りながら見えた柱の本数を通った瞬間に今何本だったと確認したり。それを右目左目でやっています。試合前はもちろんですけど、遠くを見てから近くをみて、上方下方左右と目を動かすようにしています」できる準備には全力を尽くし、日々の生活でも自然と審判員として活動する為に必要なことに時間を使っている。

「頑張れという言葉は好きじゃなかった」元選手だったからこそ選手ファーストの審判に

最初は元選手だったからこその難しさもあった。「普通、守っているとき選手は打球を追うんですけど、審判は打球を追うと打球しかみられなくなってしまうのでダメなんです。本当はオープングラブと言ってグラブがボールをしっかり捉えているのが確認できるように角度と位置取りをしていくんですけど、もともと外野手をやっていたので外野フライのときは打球の方にいってしまうこともあってそれを直すのに時間はかかりました」

 一方で、選手だったからこそできる気配りもある。「私は『頑張れ』という言葉が好きじゃなかったんです。選手の時、頑張っても頑張ってもうまくいかなくて落ち込むときもありました。その時に『頑張って』と言われると『いや頑張ってんじゃん』って。今勝っているのか負けているのか。その前の回にどういう流れだったのかこの回はこういう流れで行きたいんだろうなっていうのは汲み取って言葉を選ぶようにしています」。

 一番は選手の為に―。ジャッジするだけでなく、選手が気持ち良く悔いなくプレーできるようサポートすることも審判員の大切な役割なのである。本業の看護師と同じくらい審判員として成長する為に時間を費やしている岩男さん。そのモチベーションについてこう話す。「勝敗が付くのは仕方ないですが、悔いを残さずやり切ってほしいと思っています。試合が終わった時にどちら(の選手)も晴れ晴れとした顔をしているのを見たときはよかったなって思います」

“女性”だからこそ考えること…

 かつては球場に女性用の更衣室がなく着替え場所に苦労することもあったというが今ではハード面も改善されてきた。しかし、女性だからこそ気を付けていることもある。「髪は結んでいくようにしています。やっぱり女性はまだ物珍しいと思うので、いい意味でも悪い意味でも目についてしまうことがあります。それが自分だけの事ならいいんですけど、団体(神奈川県野球連盟)の審判員としていっているので、どこにいてもみられているという意識をもっています。化粧はしていきません。汗をかいてドロドロになるのもあるけど、そんなところにかける時間があるなら規則書を読む時間に充てたいです」

「環境を作っていきたい」岩男さんが目指す女性審判員のこれから

 元女子野球選手として現役引退後は審判員として野球に関わることを選んだ岩男さん。女子野球の現状をどのようにみているのだろう。「甲子園や東京ドームで決勝が行われるようになり社会が変わってきたので少しずつ取り上げていってもらえていると思います。活動の場が広がったのも色々な方の協力があってのことなので感謝しています。私も女子野球で沢山経験させてもらったので、恩返しじゃないですが沢山関わっていきたいです」。

 選手だけでなく、審判員でも女性の人数は増えつつある。かつて自身にアドバイスをくれた先輩たちの姿が今後の目標だ。

「これからはお姉さんという立場になっていきます。女性でもできるよということや、女性だからできないという社会ではないということを伝えたいです。私が所属しているところはみんな受け入れてくれてやりたいようにやらせてもらっているので、そのような環境を下の世代にも続けて提供したり、女性ならではの困っていることに相談に乗ってあげたりとか、逆に相談乗ってもらったり、そういった環境を作っていきたいです」

 注目を集めるようになってはきたものの、まだまだ女性審判員の数は少ないという。審判員として着実に経験を積んでいる岩男さんのような生の声を通して、より多くの方に審判の楽しさや可能性を提供できる機会をより多くの方に届けていきたい。

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次