侍ジャパンU-12代表・井端弘和監督インタビュー(3)「世界の野球」とU-12世代で大切なこと

(サムネ画像提供 SAMURAI JAPAN/Gettyimages)

 今年7月28日から8月6日にかけて台湾・台南市で行われた「第7回 WBSC U-12 ワールドカップ」。井端弘和監督が率いた侍ジャパンU-12代表は韓国、アメリカ、ドミニカ共和国に3連勝するなどして4位入賞を果たした。

 その中で9試合を戦い、肌で感じた「世界の野球」や、井端監督が大会を終えてあらためて思う「これからの日本のU-12世代に必要なこと」を聞いた。

日本の野球との違い、ヨーロッパ勢の底上げ

――ここからは対戦した各国・地域についての質問です。対戦して印象に残ったチームやプレーはありますか?

 アメリカにこの世代で初めて勝つことはできましたが(7対0で快勝)、アメリカとの試合が一番印象に残っていますね。サインプレーやデータをリストバンドのところに書いて、ベンチと選手でそれを共有していました。これはトップチームでもやっていることで、それを一番下のカテゴリーでもやっているということは「代表の一本化」が凄くできていることを感じました。日本にはそうした各世代を通した一本化が無いので、あればいいなと思いますね。

 あとアメリカは緻密ですよね。勝負事をシビアに考えています。勝利に対して何が最優先かということを考えて、歩かすところを歩かせる(勝負を避ける、敬遠する)など、意外と勝負してこなかったので、日本もこのカテゴリーがそこまで来たんだなと思いました。一方で日本の方がパワーで勝負していたので、僕の中では力勝ちしたなと思っています。

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――開幕戦で敗れ、その後準優勝したチャイニーズ・タイペイは開催地ということもあって長期間での代表活動を生かしたサインプレーや隙を突くプレーをしていましたね。

 あれだけ長い準備期間で、7月から1ヶ月かけて大会に臨めば、ああいうサインプレーや連係プレーができますよね。だとすると、そこに勝つには個人の力で勝てないといけません。結果は敗れましたが(延長タイブレークで2対3のサヨナラ負け)、チームが成熟していったスーパーラウンドで戦えていたら勝てたと思います。

 開幕戦で、初めてのナイター、熱狂的な応援の中でのアウェイの環境・・・言い訳になりますが、もう一度やれれば結果は変えられたと思います。

――結果として2戦2敗となったベネズエラの印象はいかがですか?

 ポテンシャルが高かったです。3位決定戦ではいきなり2番打者に本塁打を打たれましたが、2ボールからの変化球でした。狙っていたのではなく「甘いボールをどんどん打っていくスタイル」はトップのカテゴリーの選手たちと変わらないんだなと思いました。日本だとどうしても少年野球で「2ストライクまでは甘いストレートを待つだけ」のようなところもあるので、そこは違いますね。

――ベネズエラは同国出身のホセ・アルトゥーべ選手(アストロズ)のように小柄でもパワーや球際の強さを感じました。

 理に適ってますよね。決して力でブンブン振るわけじゃないけど、関節を柔らかく使って打ちます。(日本人では)真似するのは難しいと思える選手は何人もいましたね。生まれ持ってなのかどうかは、向こうで1・2年生活してみないと分かりませんが、あれに基本がプラスされると、とんでもない選手が生まれるのかなと思いますね。

――他にも印象に残ったチームはございましたか?

 ドイツが緻密に野球をしていましたよね。練習も見ましたが牽制やクイックという細かい部分も教えていました。打者もしっかり振れる選手もいましたし、あの代でしっかりやっているのであれば近い将来、強くなるのかなと思いました。

――WBCでチェコが印象に残る試合をしたように、ヨーロッパの野球のレベルアップを感じますよね。

 野球人口が増えているのかなと思いますよね。楽しくやることができていて細かいことはやっているので「良い指導者がいるな」と思って見ていました。

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「1メートルでも遠くに飛ばすんだ」と取り組んでいくことが成長に繋がる

――今年はU-12とU-15の指導者資格(※)を取得してされてから指導にあたり、選考の際の面談の際には資格講習の要素の1つであった「スポーツマンシップ」のお話もされていましたが、国際大会ならではである選手たちの姿も印象的でした。

 やはり「尊重し合う」ということは欠かせません。勝ち負けをフェアに争い、アンフェアなプレーは一切ありませんでした。また、試合が終わってホテルに戻ってからも、他のチームの選手たちと和気あいあいと国際交流をしていたことも良かったですね。言葉は通じなくてもなんとかして会話をしていましたよね。長い付き合いになるのもいいですし、「あの時のあの選手が」という活躍があるかもしれませんからね。

*指導者資格
NPBとBFJで構成する日本野球協議会で企画・検討されたカリキュラムに基づき、BFJが認定を行っているアマチュア野球界共通の指導者資格(硬式/軟式の区別なく、特定の団体に所属していることを条件としない資格)

――また、試合をすることでも貴重な経験を得ましたよね。

 少なからず国内とは違う野球を体感しましたからね。だから選手たちには「まず日本で頑張って世界に羽ばたいてくれ」と言いました。

――井端監督の指導では、規律を大事にしながらも「監督の顔色ばかり見るようなことはするな」という言っていたことが印象的でした。

 そうですね。バスの中で和気あいあいとしていた時は、なるべく口を挟まないようにしていました。その中でも選手たち自らで「うるさいぞ」という声が出てきて素晴らしかったです。最初は会話が無く遠慮していましたが、だんだんコミュニケーションも取れましたし、流されずに注意し合える関係性だったいうのは良いことですよね。「周りに流されない」ということは野球をやる上で大事なことですから。

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――「監督の顔色ばかり見るな」という一方で、試合の中において「サインを見る」ということは徹底されていましたね。

 見る選手と見ない選手がいると攻撃のリズムが変わってきてしまいますから。初めてですね。サインの見方を練習をしたのは(笑)でも、今はどのチームもそんなにやっていない気がしましたし、中学・高校と今後必要になっていくことなので、時間を割きました。練習した後はスムーズにいったので、やって良かったなと思いました。最後は2アウトランナー無しのサインなんて出ない場面でも見てくるほどになりました(笑)大舞台でもそうやって自然とできることが増えたということは、選手たちの対応力が凄かったですね。

――最後に、これからのU-12世代の指導において、日本の野球のためにどんなことを大事にして欲しいですか?

 チームプレイは大事にしながらも、個人の力をどんどん伸ばすことが大事だと思います。いろんな野球を見ていると「バント攻撃で勝てた」という試合もよく見ます。もちろん勝負事ですから勝つことも大事かもしれませんが、バントするために練習している訳ではありません。「昨日よりも今日は1メートルでも遠くに飛ばすんだ」と取り組んでいくことが成長に繋がります。月曜から金曜までやってきた放課後に取り組んできた成果を出す場である土日の試合でバントばかりでは、「子供たちの努力をなんだと思っているんだ」と感じます。

 打球を飛んだら褒めて、伸びていなかったらそこで初めて指導者が「こうやった方がいいんじゃないか」とアドバイスを送ればいいんじゃないかと思います。それが全国各地のいろんなところでできてくれば、日本がアメリカを凌ぐ野球大国になる。それが理想じゃないかと思います。そのためにも、指導者が勝ちにこだわるばかりでなく、作戦面で勝とうとするのは極力避けて、能力を少しでも伸ばす形に特化してくれればと思います。

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