「成長率ではどこにも負けない」“10年神宮プラン”を結実させたハードとソフトの成長システム (鹿屋体育大学・藤井雅文監督)

2023年の全日本大学野球選手権大会に初出場し、2勝を上げて一躍話題となった鹿屋体育大学。スポーツ推薦なしの国立大学が、全国の強豪校と渡り合った。溌溂とした選手たちを率いた34歳の藤井雅文監督に話を聞く第2回。

就任時に「10年神宮プラン」を引っ提げて実行に移した藤井監督。チームに監督のいなかった状態から徐々に改革を行い、選手が自らを成長させられるシステム作りに邁進した。体育大学ならではの設備というハード面に加え、ソフト面で成長を促す独自の部内システムにも大きな特徴がある。

「Expert制度」「Core Wide制度」

 鹿屋体育大学硬式野球部のホームページを見ると、通常の野球部では見かけない様々なキーワードが並んでいる。「Expert制度」「Core Wide」…。

部内の「制度」について改革したのは3年前だ。20人ほどからスタートした野球部が、60人ほどに達した。それまでは、最終学年になれば全員ベンチに入れるような状況であったのが、部員数が増えてきて、そうはいかなくなった。選手たちがどうやってモチベーションを維持し、野球部で何を得るか。この鹿屋体育大学を卒業して、どんな専門性を持って社会人になっていくのかということを、藤井監督はかなり考える時期があったのだという。

「10年計画の『改革』と書いた時期。そのタイミングで何か変えないといけないなと思いました。人数が増えても全員の夢をちゃんと応援出来る、夢を達成出来るような、そんな組織に変えられないかなと。まずは2年間はしっかり選手として取り組んだ上で、3,4年生では、卒業後自分がアナリストになりたいのか、先生になりたいのか、プレイヤーとしていきたいのか、ちゃんと考えて、そういう専門性を持って卒業していくというような仕組みを作れないかと」

「Expert制度」は1年生から4年生までを、「新人→若手→中堅→幹部」と位置づけ、自分がどんなエキスパートになっていくのか(PLAYER ,COACHNG,MANAGEMENT,SCIENCE)、そのために何をしていくのか、卒業した時にどう進んでいくのかを考え、それぞれが研究し追求していくシステムだ。

Expert制度(野球部HPより引用)

 また、「Core Wide」という考え方としては、「Core(核)」に位置づけられるのが、部員。部員をセンターにして、監督・コーチ、部長・副部長、OGOB・地域・関係者、ファンというようにピラミッド型で表される。中心である部員の意識が高いほど、関係者や支援者が増えて裾野が広がる。他への影響の輪を広げられる(Core Wide)人材の成長を目指す。このように、野球を通じて社会人として必要とされる能力を育成をする場を用意し、部員たちはそれを使って自分自身を成長させていく。それが鹿屋体育大学野球部の大きな特徴だ。

Core Wideのイメージ(野球部HPより引用)

監督自身も研究・実践

 藤井監督自身も修士課程・博士課程と大学院に通い、野球を通して研究をしてきた。どんな風に強いチームを作るかを研究し、実践している。

「私の研究テーマは大きく二つあって、一つは野球のパフォーマンスの研究。もう一つがチームの研究です。中学校の教員をしていた頃、強いチームを作るのは、必ずしも専門知識を持った恐怖で制する指導者ではないなと思い始めていたんです。特に中学なんて初期能力はあまり変わらないのに関わらず、いつも勝つチームを作る指導者が存在する。成長するチームって何が違うんだろうと考えた。例えば、自己調整学習という、セルフマネジメントしながら学習を進める能力とか、チームを構成する部員の集団凝集性が強い方が試合には勝てるとか。実際、自己調整学習を高めるには、どんな活動をしたらいいかとか、そんなことを、実践を交えながら研究をして、今でも毎日研究・実験の積み重ねみたいなものですね。それがリーダーシップスタイルによってどんな風に変わるのか、みたいなことをライフワークとしてやっている感じです」

一番の強みは「成長率」

「新時代を築く唯一無二の野球部」を掲げる鹿屋体育大学硬式野球部。元々スポーツ推薦はなく、大学共通テストと運動能力検査を受けて入ってくる。運動能力の検査を受けるとはいえ、進学校の出身が多く、入学時には「フィジカルが弱々なメンバー」。そのままでは太刀打ち出来ない。まずは土台となる体作りに励む。トレーニングや栄養面の基本から学び、豊かな設備を生かしながら、自分たちに必要なことを考えて実践していく。豊かな環境が、それぞれに加速度的な成長を促している。

打撃測定の設備も充実している(野球部HPより引用)

「自分たちの一番の強みは『成長率』だと思ってます。ハード面の良さと、ソフト面。選手たちがお互いの心理的安全性をちゃんと担保しながら努力するとか、社会的にもこの鹿屋、鹿児島の地で応援される雰囲気がある。みんながのびのびと、生き生きと、自分たちの正しい努力を遂行していける。もちろんその雰囲気は、選手だけではなくコーチ陣や学生コーチやマネージャー、野球部に携わってくれている方々全員で作ることができている。そのようなチームの良い流れが、今は本当に出来ている。正しい努力をしっかりして、成長率で勝負出来るという雰囲気が、他の大学より圧倒的に優れているんじゃないかと思います」

「自分で自分を成長させる」そう掲げる鹿屋体育大学野球部の部員は、能動的に動く。自ら野球を学び、考え研究し、自分の適性を判断して必要なものを取り入れ、それぞれがエキスパートへの道を選んでいく。自分で決めたことを正しい努力をしてやり抜く。

 全日本大学選手権の神宮では、彼らの笑顔に自信が見えた。大舞台で自身の成長と「カノヤ野球」の成果を実感出来たのだろう。

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